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彩色 -iroiro-

Who's Who > 美術表具師 奥田良三さん

更新日:2008/10/26
作者の気持ちを感じ、墨の色や字の勢いで作品が一番輝くように布を合わせます

 西宮東口商店街にあるお店に、全国技能士連合会表装職種第一号マイスター認定者である美術表具師の奥田良三さんを訪ねて来た。

全国技能士連合会表装職種第一号マイスター認定者である美術表具師の奥田良三さん

全国技能士連合会表装職種第一号マイスター認定者 美術表具師
 奥田良三さん

写経の裏打ちから始まった「表具」

これまでにもいろいろなところで取材を受けられている奥田さんは
「ひょうごの匠(たくみ)」
の第一回認定者でもある。事前に資料をいただいていたが、実は読むか読むまいかと迷った。読めば、その資料に引きずられるのが怖かったから・・・。
ただ、秋の展覧会の時期に向けて一番お忙しい時期なので、無駄なお時間を省かないといけないだろうと思い、下準備をして伺うことにした。それでも、静かにゆっくりと話してくださる内容がとても
この巻物に合う布は〜〜♪

この巻物に合う布は〜〜♪

面白く、ずうずうしくも2階の裂地(きれじ)の棚や、下張り用に使うという昔の通い帳や大福帳まで見せていただいた。
「表具」とは、写経した薄い紙に丈夫な紙を裏に張る(これを裏打ちと言う)必要があったことから始まったと言われている。
しかし、
表具師の仕事の範囲は広い
障子やふすま張り、掛け軸や屏風や巻物などの作製、さらに古文書の修復などがあり、
展示会シーズンに向けて大忙し

展示会シーズンに向けて大忙し

建築から美術、そして文化財保護まで
に亘る。
今では、だんだんと少なくなる職業だが、奥田さんの所では、息子さんの学さんをはじめ、若い職人さんも育っているのは、きっと奥田さんの人柄も大きいのだろうと思った。

小遣い稼ぎの障子張りの手伝いからこの道へ

お父さんも古文書の修復などで黄綬褒章を受けた人。
「イヤ〜、それはいろいろな思いはありましたよ。でも、とにかく食べていくことが先でしたから・・・」と小遣い稼ぎの延長でこの世界に飛び込み、お父さんの見習いから始めたそうだ。「面白くなったのは、書道を習い始めたりして、表具師の仕事の間口の広さと共に、
その奥行きの深さに気づいた
表具師の道具は、刷毛もカンナも。。。

表具師の道具は、刷毛もカンナも。。。

頃からでしょうか…」
86歳で亡くなったお父さんは、その3〜4年前まで現役だったという。そのお父さんも後年は古文書の修復や美術表具が中心だった。「もう、昔とは生活様式が変わって来ましたからね。旧家・・・と言われた家も減って、ふすまや障子の張替えは少なくなりましたね。特にこの辺りは、震災で・・・」
「以前は、公共の資料室や博物館などでの絵図や古文書の修復の仕事も多かったのですが、最近は予算が厳しくなって来たのでしょうね(笑)」
一番好きな仕事が古文書の修復
だという奥田さんにとっては寂しい現状のようだ。「古文書の修復って、あの虫食いの穴を裏から張るだけではないんですよね??」という無知な質問にも嫌がらずに「和紙の繊維をほぐすようにして、丁寧に穴を埋めていくんですよ。字の部分が虫に食われてしまっていたら、字を書くわけにはいきませんから白くなりますが・・・。しみなども取って欲しいという依頼もあります。」と奥田さん。取れるしみかどうかは、
布を選ぶ目は厳しい

布を選ぶ目は厳しい

長年の勘で大体分かる
という。
今では展覧会の仕事が多いと言う。他人が気持ちを込めた作品を預かって仕上げるわけだから、失敗が許されない気を使う仕事。

ショーウィンドから流行色を学ぶ

お店に入ったところに大きな作業台がある。「場板(ばいた)」と言うらしい。ノリなどがつくので表面を削らないといけなくなって、結構この分厚い作業台がうすくなるもものらしい。その
場板の横には、刷毛と一緒にカンナ
まずは、作品の裏打ちから

まずは、作品の裏打ちから

もかけてある。表具師の仕事の幅の広さを物語っている。
大きな作品を仕上げるためには、それを張る大きな板も必要だから工房の天井は高い。
取材に応じていただいている間にも、傍らで息子の学さんが手際よく裏打ちを仕上げていく。ノリをこねる作業、あっという間に仕上がる裏打ち作業・・・どれにも
リズムがあり、見ていても飽きない。
「いや〜、お金のためにやってます・・・」跡を継ぐようになったきっかけを伺うと、そんなテレ隠しの言葉が返ってきた。
先輩の職人さんに教えてもらったという手作りの道具を見せてもらった。お父さんからの直接指導はほとんどない・・・と学さん。でもたまに色合わせのことなどで相談されることもあるのだとか。「そんな時は
やはりうれしい
ですね。」
糊をこねる手つきはリズミカル

糊をこねる手つきはリズミカル


「最近は、片仮名の言葉で色を指定されたりすることもあります。そんな時は若い人の感覚を息子に尋ねたりしますね。ですから
色合わせの勉強でショーウィンドを眺めに
行くこともありますよ。やはり流行色も知っておかないといけませんから。」そんなお話を聞きながら今度は二階の「裂地(きれじ)」を見せていただいた。

作品を見て「裂地(きれじ)」の柄や色を選ぶ

たくさんの色目の布が出番を待つ

たくさんの色目の布が出番を待つ

昔懐かしいような急な階段を上がって2階へ。作品の台になる板がたくさん置いてある。
展覧会から帰ってきた台から、作品を外して作品だけを作者へ返す。一番若い職人さんがその仕事を担当している。作品が外された板に、また新しい布が張られ、その板がまた次の出番を待つ。「面白いですよ!!」と若い職人さんが頼もしく答えてくれた。
そんな作業台の奥に、「裂地(きれじ)」が入ったたくさんの引出が並んでいた。
「どこに、どんな色や柄の布が入っているか、そしてその布がどれだけ残っているか・・・すべて覚えていますよ。」何でもないことのように答える奥田さん。
「作品の内容や、墨の色、字の大きさや勢い、そして作者が何を表現しようとしているのか・・・それらを生かすためにどんな色や柄の布を合わせるか??作品を見てすぐに浮かぶ時もありますし、もう、迷いに迷うこともあります。」
裂地(きれじ)が作品を引き立てる

裂地(きれじ)が作品を引き立てる

表具とは作品の引き立て役
でないといけないから、この
色合わせは命。
そのまだ奥には、昔むかしの大福帳などが置かれていた。「この昔の紙は強いんですよ。下張りに使ったりするんです。」紙を手で引っ張りながら教えてくださった。
でも、これ自体が古文書ですよね・・・などと言いながら見せていただいたが、次々に宝物が飛び出してくるような工房だった。

3度目の四国八十八か所巡りは奥様と一緒

頼まれる仕事は書の作品の表装が多い。作品の内容は、まずその字が読めないと解らないからと、書道を始めた。それは今でも続いており、時にはご自身も出展される腕前。
書き溜めた奥田さんの作品

書き溜めた奥田さんの作品


同じように、「宝印を押した納経帳を掛け軸に・・・と言う仕事もあります。そんな
巡礼者の気持ちを知っておきたい
と、一番初めに八十八か所巡りをしたのは昭和50年代ですが、その時は満願まで10年かかりましたね。たまの休みの日を利用してでしたから〜。今では、バスで回れるツアーも多くなりました。」
3回目の今回は奥様と一緒。「私の書の師匠が亡くなられたこともあって、
お世話になった方にお参り
させて頂いている気持ちです。」
東口商店街のお店

東口商店街のお店


表具師の仕事は一日中立ち仕事。だから、今も香櫨園浜までのジョギングや社交ダンスでバランス感覚も養っている。こうした心身共の鍛錬が今の奥田さんを支えているのだろう。
一切お任せします!!と言って依頼
を受けることも多いです。責任重大ですが喜んで頂いた時は本当に幸せですね。」


最近は、早く乾かすために乾燥機を使ったりするようだが、奥田さんは
あくまで自然乾燥
にこだわる。「落款などの色が少しでも変色することがあったりするといけませんので。」
だから、
最後の仕上げ仕事は、天気の良い日
が続く時を選んでするのだと言う。
大きな物音のしない静かな工房だが、そこにはピーンと張り詰めた緊張感があった。丁寧に、心を込めて一つ一つ手作りする。その作業の中で、物がただの物でなくなり、作者と奥田さんの間に、時空を超えた「ご縁」が結ばれているように感じた。

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