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Who's Who > ◆武庫川女子大学准教授・工学博士  三宅正弘さん

更新日:2008/09/15
人の意識でまちは変わる 武庫川女子大学准教授・工学博士 三宅正弘さん

 武庫川女子大学生活環境学部の准教授で、まちづくりや地域デザインを研究する三宅正弘先生。机の引出しの中にころがる六甲山の石をはじめ、たくさんの“宝物”に囲まれた研究室で、西宮の古い地図を見せていただきながら、人とまちの関わりなどについて楽しくお話を伺った。

武庫川女子大学准教授・工学博士 三宅正弘さん

【プロフィール】
1969年、芦屋市生まれ。
関西大学卒業、京都大学大学院修士課程修了、大阪大学大学院博士課程修了。工学博士。現在、武庫川女子大学生活環境学部・准教授。
兵庫県庁「阪神南地域ビジョン委員会専門委員」など、多くの公職も。
著書に『石の街並みと地域デザイン―地域資源の大発見』(学芸出版社)、『神戸とお好み焼き―まちづくりと比較都市論の視点から』(神戸新聞総合出版センター)、『遊山箱 節句の弁当箱』(徳島新聞社)などがある。

まちづくりにはテーマが重要

 三宅先生の何冊かの著書のタイトルに見られるのは、「お好み焼き」や「石」という私たちにとても身近なものである。
また編集部が初めて三宅先生にお会いしたのは、西宮での「ケーキ」についての講演会だった。まちづくりや地域デザインが専門と聞くのに、なぜケーキなのだろう。
「ケーキ屋さんというのは西宮のどこの住宅地にもあって、ケーキの話をすると、西宮の人たちは“わがまち自慢”に変わるんです。ケーキ屋さんが、自分のまちを意識するきっかけになっている。
そういう身近な題材からまちづくりを考えていく
のが、僕の基本的なスタンスです」
とかく「地域のまちづくりを考えよう」とか「地域の環境を考えよう」という話になると、苦情が出たり要望が出てきたりする。「でも、
思わず笑顔になったり、人への感謝の気持ちが口から出る
というようなテーマが、それぞれの地域にあるんです」
そのように地域のことを考えるきっかけになるものを、三宅先生は“宝物”と呼んでいる。
宝探しのための資料がいっぱいつまった先生の研究室

宝探しのための資料がいっぱいつまった先生の研究室

宝物はどの地域にも必ずあるが、そんなに多くはない。
「誰かの自慢で終わるようなものではだめなんです。
皆が共有できるもの
でないと…」3年前に武庫川女子大学に来てから、大学のある鳴尾で、三宅先生は“宝探し”を始めた。
「地元の人とひたすら会話をしていると、話がはずまないものと、自然と話がはずむものとがあるんですよ。常に会話と観察です」そして見つけたのが、苺である。

鳴尾には苺畑が広がっていた

 いまは1軒の苺農家が残るだけだが
鳴尾はかつて苺の有名な産地だった
昭和の初期頃まで苺狩りでにぎわったという。当時、鳴尾に競馬場があったことから、苺の品種にはダービーという名がつけられていた。
「鳴尾の年輩の方々は、苺の話になると、昔の思い出
子供の頃の思い出がよみがえる
一万人の学生が通ってくる武庫川女子大学

一万人の学生が通ってくる武庫川女子大学

ようで、とても盛りあがります」
やたらモノの方にスポットが当たる昨今、「そうではなくモノが引き出す会話、モノが生み出すコミュニケーションが大事」と三宅先生は言う。鳴尾の苺の場合も、地域の人たちが共有して楽しめ、鳴尾に通ってきている大学生との
 交流も生み出すものであるからこそ
  “宝物”
なのだ。
「苺は学生たちも好きですし、話がはずむ。それを実感すると、学生たちの行動も研究意欲も変わってくるんです。地元の人たちは情報を持ってきてくれたり、苺の株分けをして、自分たちの家で苺の苗をふやしてくれたり、いろんな広がりが出てきています」
「いま苺のメッセージを送ると、地元のいろんな人たちからリアクションがあって、先日は福祉施設の方が一緒にやりたいって来られたし、10月からは小学生と一緒に畑をやることになりました」

武庫川女子大学生活環境学科の学生の手による「鳴尾村づくり」は、鳴尾の魅力を再発見する地域新聞。

武庫川女子大学生活環境学科の学生の手による「鳴尾村づくり」は、鳴尾の魅力を再発見する地域新聞。

「鳴尾って面白い」と思うと鳴尾が変わる

 武庫川女子大学での1年目、三宅先生は、歴史的な資源がたくさん残っている鳴尾のまちを学生たちと歩いた。そして、学生たちにスケッチをさせたそうだ。
「写真を撮るのは一瞬だけど、スケッチだと場所と対話する時間が長くなるという良さがあります。基本的には、
こんな面白いところが目の前にあるよ
というのをわかってもらいたかっただけですけどね」
「2年目から地元の人たちが『今年はいつ描きに来るの?』と言ってきてくれて、描きに行くと、ものすごく喜んでくれます」
毎日1万人の大学生が鳴尾に通って来る。「まず学生たちが鳴尾のことを知る。これまでわりと関係が薄かったんですが、学生たちが鳴尾に関わっていって、鳴尾って面白いと思ったら、勝手にまちがかわっていくと思うんです」
「まちというのはつくるものじゃなくて、勝手にできるもの。そこに
暮らしている人たちの意識によって、結果としてまちができる
んです」

先生の研究室にはいろんな物が集まってくる

先生の研究室にはいろんな物が集まってくる

西宮のこれからの都市計画は農業

 都市計画と聞くと、ビルを建てて、公園を作って…とイメージしてしまう人も多いのではないだろうか。でも三宅先生は西宮を考えるとき、これまで都市計画とは違うものと見られてきた農業に着目している。
「自分のまちの意識を固めていくためには、
環境も含めて考えると、農業がかなり重要
になってくると思うんです」
三宅先生の言う「農業」とは、作物を売ることが第一なのではなく「地域の人が楽しむ農業」である。「鳴尾の苺で農業を元気にしたい。西宮で農業が育ってくると、皆ますます地元に定着していく。

三宅先生が徳島大学勤務時代に見つけた“宝物”は、遊山箱(ゆさんばこ)。桃の節句などにごちそうを詰めて野山に出かけたという3段重ねのお弁当箱である。
「徳島で遊山箱の話をすると、お母さんやおばあちゃんに作ってもらった感謝の思いが皆さんからあふれ出てきます。ランドセルより普及率があったくらい全員が持っていた、全員が共有できるものなんです」
30年間ほど忘れられていたが、三宅先生が新聞に連載したりするうちに、遊山箱の生産も、遊山箱を持って家族で出かける風習も復活していったそうだ。

自分のまちを好きになる農業
もあり得ると思います」
「環境問題も、環境だけで取り組むのではなくて、地域への愛着と、それから産業と、3つを一緒に考えていくべきです。いまそれぞれバラバラに、中途半端な形でやっていますから…」
さらに三宅先生は、かつては「西宮のさくら鯛」が有名だったという水産にも目を向けている。
「水産の望みはまだ時間がかかりますが、まず農業で、次に水産業、という形をとりながら、環境を戻していく。これが西宮の都市計画だと僕は思っています」

寄り道したくなる魅力あるまちに

 三宅先生がまちづくりに興味を持ったきっかけは、子供の頃の家族での散歩だったそうだ。
「家は芦屋でしたが、両親とよく苦楽園や甲陽園あたりを散歩しました。歩いていると池があって、魚をとったり、乗馬場があって馬が走っていたり…。散歩ばかりしてたのは、狭い街の中に自然とリゾート地のような住宅地、そして都会とまじっているのが面白かった。」
机の引出しの中には、六甲山の石だけではなく、世界中の石が…。学生さんたちが旅行のおみやげに持って帰ってきてくれるそう。

机の引出しの中には、六甲山の石だけではなく、世界中の石が…。学生さんたちが旅行のおみやげに持って帰ってきてくれるそう。


「いまでも散歩や寄り道が好きです。だから、
歩いていて楽しいまちができていったら
いいな、と…。寄り道を楽しむデータづくり、みたいなことをしているわけです」
阪神間の山もよく歩いたことから、三宅先生の研究の始まりは御影石だった。
六甲山のピンクの石。これもやっぱり、阪神間の人間の共有できるもの
なんですね」

 「阪神間石垣バンク事務局」

【Fax】0798-45-9882

阪神間の山手には、六甲山のピンク色の石(御影石)がたくさん埋まっている。昔、住宅地を造成するときには、工事現場から出た石を使って石垣が組まれた。
「そうやって造られた住宅地では、同じピンク色の石垣が続いています。でも、いまは道路工事で石が出てきても、小割りにして捨てられてるんです。引き取り業者がなくて…」
捨てられる石を、ほしい人へ橋渡ししようという活動が、三宅先生が10年以上続けている「石垣バンク」である。
「毎日どこかの工事現場でたくさんいい石が出てきています。その石を使いたいという人があれば、ぜひ石垣バンクまで」


「小学校の授業では石の話がウケがいいんです。小学生は地元の石をよく知っているので、話にのってきてくれます」
取材に伺った頃、三宅先生は「甲子園ホテル」についての本を執筆中だった。
「東の帝国ホテル、西の甲子園ホテル、と言われたような、関西一のホテルが西宮にありました。また日本を代表する料亭の『播半』も甲陽園にありました。西宮という郊外の都市にそれらが立地したという背景を、しっかり書きたいと思っています」
フランスのワインの味が土に由来するように、鳴尾の苺の味は、六甲山の石が砕けた砂でできた味。そして、甲子園ホテルのパンフレットには、お土産として鳴尾の苺が載っていて…。「僕の中ではつながってるんです」という三宅先生は言う。

知っているようで知らない自分のまち。時の流れや季節の移ろいを感じつつ、大いに散歩や寄り道をしてみてはどうだろうか。そして、まちに長く住む人から、まちの昔話を聞いてみるのも、きっと楽しい。


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